たばこ

マンションの駐輪場のコンクリートの花壇の縁に、雨で湿ってるかなと思いながら腰かけた。乾いていてよかった。毎晩この場所でキャスターを更かすのが日課なのです。ちょっと前までは駅前の喫煙所まで歩いて、2、3、4、5本ほど吸って、帰ってきて...という風にやっていたがあの辺りはこんな時間になっても人通りが多くて、ちょっとおかしい人間に声を掛けられることもあり煩わしかったのでやめた。
スマホは持たない。煙草とライターと携帯灰皿だけ、高校時代から着古して腰回りがだぼだぼのハーフパンツのポケットに突っ込んで鍵をかけずに外に出る。だぼだぼだからスマホをポケットに入れると歩いているうちに脱げてしまう、だからスマホは持たない。人が通ったら気まずいな、って不安になりつつ駐輪場の、できるだけ端っこで火をつける。スマホがないのでひたすらどうでもいい思考の時間になる。いまの仕事のことを考えたり、父親を欺きながら養育費を受け取っていることにもやもやしたり、たった一人の友人に思いを馳せたり、ソノタモロモロ。
煙草の味なんてわからない。ほんのり甘いのはわかる。職場の喫煙所で煙草の話になるのは困る。難しい。煙草本来の味だとか、電子タバコは物足りないだとか。喫煙者のくせしてそこのところの理解がないのは恥ずべきことのような気がするので、適当に、なるべく不自然でないようなタイミングを見計らって相づちを打つ。こんなところに労力を費やす。はぁ。
そういったよくわからない話でなくとも、煙草についての話というのは大抵面倒くさい。特に、なぜ吸うのか?という質問に至ってはかなり面倒くさい。正直に長生きしたくないから、と答えたら「なんでそんな悲しいことを言うの」と怒られてしまって以来、どう答えるのが正しいのかわからない。怒られるのはいやだ。いや、怒った素振り、心配してみせる素振りが...会話を成り立たせるためだけに用意された台本に従っているみたいで、ちぐはぐに感じるから、それが不快ないたたまれなさを生み出しているから、いやなのか。